
地球と食料の未来のために
Japan International Research Center for Agricultural Sciences
令和7年12月11日(木)、熊本県立宇土高等学校の1年生19名を国際農林水産業研究センター(JIRCAS)に迎え、「未来科学人材アカデミー」第26回講座を開催しました。同校では、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の活動の一環として、理数系教育の充実と科学リテラシーの涵養を目的に、SSH未来体験学習(関東研修)を実施しています。今回の訪問はそのプログラムの一部として行われました。
講座の冒頭では、JIRCASの研究活動や国際共同研究の概要を紹介し、世界各国のパートナーと協力して進める農林水産分野の研究が、日本に住む私たちの食や生活にどのように貢献しているかを説明しました。特に、日本の食料生産の現状や国際的な食料生産・流通にも触れながら、日本が開発途上国での研究や技術開発への協力を進める意義について、生徒自身が考える機会を提供しました。また、現在求められている問題解決型人材像とグローバル人材や科学技術イノベーション(STI)人材についても解説しました。
続いて、企画管理室の石崎琢磨研究企画科長が、農業研究における植物バイオテクノロジーの活用について講義を行いました。石崎科長は、自身が「バイオテクノロジー」という言葉に惹かれて農学部に進学し、植物の生理機能の解明に様々なバイオ技術が活用されることを学ぶ中で、遺伝子組換え研究に出会い、研究の世界に引き込まれていった経緯を語りました。大学院時代の研究成果を得た喜び、同期が社会人として活動する中で感じた不安、そしてJIRCASに研究員として所属した時の嬉しさなど、リアルな体験談を共有しました。
さらに、JIRCASで取り組んだアフリカ向けのイネ品種群「NERICA(New Rice for Africa)」の乾燥耐性強化のため、DREB遺伝子を導入した遺伝子組換え研究について紹介しました。コロンビアの圃場で、自身が育成したイネが栽培されている現場を見た時の興奮や、その品種が実用化に至らなかった悔しさも率直に語りました。
現在は研究を一旦離れ、研究者を支える企画管理室での業務についている石崎科長は、研究成果の見える化や情報発信、研究者が一体的に活動できる仕組みづくりなど、研究を支える仕事の重要性についても話してくれました。
質疑応答では、生徒から「食料問題が深刻化する中で、今後5年で注目すべきJIRCASの技術は?」、「海外で研究する際の言語や環境の違いによる難しさは?」といった鋭い質問が寄せられました。講師らは、研究の段階性や実用化までに必要となる時間についても説明しつつ、特に注目され、実用化に向けての活動が精力的に進められている「BNI強化コムギ」や「未利用バイオマスを資源に変える技術」について、展示スペースの実物サンプルも活用して丁寧に解説しました。また、他の先進国や開発途上国の研究環境について詳しく解説するとともに、日本の技術的・人的優位性を活かした国際共同研究の意義についても説明しました。
今回の訪問を通じて、生徒たちは科学の可能性、研究の社会的意義、そして国際協力の重要性について理解を深め、自身の進路や将来の目標を考える貴重な機会となりました。JIRCASでは今後も、未来の科学人材育成に向けて、研究現場に直接触れる機会を提供し、科学技術への興味・関心をさらに高めていきたいと考えています。
国際農林水産業研究センター
熱帯・島嶼研究拠点