「国宝」200億超えに「超かぐや姫!」完売続出から考える、歌舞伎化する映画館ビジネスの未来(徳力基彦) – エキスパート – Yahoo!ニュース


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2025年に国内で上映された映画の興行収入が2744億円と歴代最高記録を更新し、見事に復活を遂げた日本の映画業界ですが、今週に入って、さらに象徴的なニュースが立て続いているのをご存じでしょうか。

一つ目は、映画「国宝」の国内興行収入が200億円を超えたと発表されたニュース。
そしてもう一つは、本日20日に公開される映画「超かぐや姫!」が完売する劇場が続出しているというニュースです。

この二つのニュースは、日本の映画館ビジネスが本質的に大きく転換していることを象徴しているニュースと言えますので詳細をご紹介したいと思います。
 
まず何といっても大きな話題になっているのが映画「国宝」の200億円超えでしょう。
そもそも、日本の実写映画はこの20年以上100億円を超えることはありませんでしたし、多くの業界関係者がもう踊る大捜査線の記録は超えることができないだろうと考えていました。

しかも映画「国宝」が公開された直後の興行収入の最終予測は20億円だったのです。
それがクチコミによって毎週のように興行収入が右肩上がりを続け、業界関係者の予想を裏切り続けるロングヒットになったのです。
参考:映画「国宝」の異例の大ヒットにみる、カンヌとクチコミの相乗効果

当然ながら、去年の段階で公開直後の興行収入予測の10倍を超える興行収入をあげることなど誰も予想していなかったはずです。
さらに映画「国宝」の凄いのは、先週末の興行収入ランキングも9位、その前の週は7位と、いまだにトップ10に顔を出し続けるほどのロングヒットになっている点です。

これにはアカデミー賞のノミネートなど、新しい話題が続いている点も影響しているとは思いますが、やはり何といってもこの長く続く国宝現象を支えているのはリピーターの存在でしょう。
昨年の8月の段階ですでにそのリピーターの存在は多くのメディアで取り上げられており、例えばアエラデジタルでは「3宝目」「10宝目」と何度も足を運ぶファンが多いことが報道されています。
参考:「国宝」人気を支えるリピーターは「10宝目」も 「カットなしのフル版なら3万円出しても見ます」  

こうしたリピーターが続出するのは映画「国宝」の俳優陣の演技や、映像が素晴らしく、何度見ても新しい発見があるからだと言われています。
一方で、映画「国宝」にハマっていない人からすると、同じ映画を何度も見に行って楽しいのか?と疑問に思う方も少なくないはずです。

特に従来の、映画館というのは、これまでに見たことのない新しい映画に出会う場所という価値観から考えると、ストーリーが分かっている同じ映画を何度も見に行くのは、実に不思議な現象と言えます。

ただ、ここで注目していただきたいのが、映画「国宝」が題材にしている歌舞伎が、そもそも有名な同じ演目を何度も観ることで、役者ごとの「型」の解釈の違いや、舞台の演出変化などを楽しむことが推奨されるエンタメであることです。
歌舞伎の鑑賞において大向こうから掛け声をかけるシーンがありますが、これはまさに何度も鑑賞している人にしかできない楽しみ方と言えます。

同じストーリーの作品を何度も楽しむという意味では、実はすでに映画館での映画鑑賞という体験自体が、ある意味での「歌舞伎化」をしはじめていると考えることが出来るわけです。
実際の歌舞伎鑑賞のチケット代が高い席であれば1万円を超えることが普通であることを考えると、映画で歌舞伎のような体験ができるのであれば安いと考えることもできるのかもしれません。
 
実はこうした映画の「歌舞伎化」は、映画「国宝」ではじまったわけではありません。
振り返ると近年の大ヒット映画の多くが、こうしたリピーターに支えられていたことが分かっています。
2023年に実施された話題のアニメ映画に関するリサーチでは、「THE FIRST SLAM DUNK」や「すずめの戸締まり」、劇場版「鬼滅の刃」無限列車編など、大ヒットした映画は25〜30%のリピーターがおり、「ONE PIECE FILM RED」では6回以上観た熱心なファンが2.3%もいる結果となっていました。
参考:「人気劇場アニメ」4作品、リピーター比率が高いのは?

もちろん、こうしたアニメ映画のリピーター増加には、入プレと呼ばれる入場プレゼントの影響もありますし、推し活の拡がりもこうした映画のリピート視聴に繋がっているのは間違いありません。

実はコロナ禍を経て、Netflixなどの動画配信サービスが普及した結果、一時的に映画館はオワコンだという議論が巻き起こりましたが、実は水面下で映画館における映画視聴という行為自体が、従来の知らないストーリーの映画に出会うという場所から、自分が好きな作品を何度も生で体験する場所というある意味の「歌舞伎化」へのシフトがはじまっていたと言えるわけです。

特に改めて注目したいのは、昨年大ヒットしたアニメ映画の劇場版「鬼滅の刃」無限城編も、劇場版「チェンソーマン レゼ篇」も、作品のファンの多くは実は既に漫画を読んでいてストーリーを知っている状態で映画を見に来ているという点です。
 
ここでもう一つ注目していただきたいのが、今日から劇場で公開される「超かぐや姫!」です。
この作品は実はNetflixで1月22日に配信が開始されたアニメ映画です。

2000年代のボーカロイドシーンを彩った有名なボカロPたちが楽曲を手がけていることも注目され、配信開始から1週間でNetflixの世界の映画の非英語部門で7位に入り、大きな話題になっていたのですが、その反響の大きさから2月20日から1週間限定での劇場公開がされることになったのです。

ただ、既にNetflixで1ヶ月前に配信されている作品の特別公開ということもあり、全国の上映館数はわずか19館。
その限られた席数に多くのファンが殺到し、公開初日から座席予約が全国規模で満席が続出し、ファンから席が取れないと悲鳴が上がっているほどなのです。
参考:Netflixアニメ映画「超かぐや姫!」劇場公開タイミングで“異様な事態” 公開初日の座席予約が全国規模で“全回満席”
 
ここで注目したいのが、おそらくこのチケット争奪戦に参加しているであろう多くのファンが、既にNetflixで映画を視聴した上で、映画館のチケット争奪戦に参加している点です。

これは「超かぐや姫!」が、音楽のライブをテーマにしている映画であることもあり、映画館で視聴することが間違いなく作品の魅力を最大限体感できることが明らかであるためです。

実は、同様の現象は昨年世界中で大ヒットとなったNetflixの「KPOPデーモンハンターズ」が、北米で2日間限定の劇場公開をし、1800万ドル超え(約26億円)の興行収入を記録して全米興収1位を獲得するという形で発生していますから世界的な現象と言えるでしょう。
参考:劇場で特別上映されたネトフリ『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』、全米興収1位を獲得

こうした現象も、すでに映画館における映画鑑賞という体験自体が、知らない映画を初めて観賞する場所というところから、既に知っている作品を最高の環境で何度も観るという、ある意味での「歌舞伎化」的な変化をしはじめていることを裏付けていると言えます。

数字だけを観ると日本映画業界の興行収入は、2019年のピークからコロナ禍で激減した影響を2025年に塗りかえて単純に「復活」をしたように見えますが、実はその興行収入の内訳や、映画館に足を運ぶファンの求める体験というものは大きく変化している可能性が高いわけです
参考:日本映画産業の歴代最高記録は、「鬼滅×国宝」バブルか、新しい映画の時代の始まりか

現在世界の映画業界はワーナー・ブラザースを巡るNetflixとパラマウントグループの買収合戦や、ディズニーグループとOpenAIの提携を中心に大きな変化を遂げようとしていますが、映画館ビジネスは実は全くオワコンではなく、今後逆にその重要性を増す可能性すらあるのかもしれません。
ベスト エキスパート受賞
Yahoo!ニュースやYouTubeで、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。 Yahooニュース!ベストエキスパート2024特別賞受賞。
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