
あなたとエネルギーをつなぐ場所
2025年12月5日、日本大学文理学部キャンパスで日本大学文理学部次世代社会研究センター(以下、「日大文理RINGS」)主催のエネルギーセミナーが開催されました。セミナーの前半は、株式会社ユニバーサルエネルギー研究所代表の金田武司さんが登壇し、「歴史から考える日本のエネルギー問題」をテーマに特別講演。後半は金田さんと日本大学文理学部 情報科学科准教授・日大文理RINGSセンター長の大澤正彦先生との対談が行われました。後編となる今回は、エネルギー関連のニュース報道の在り方から、エネルギーとテクノロジーの意外な共通点まで、多岐にわたるテーマで展開された金田さんと大澤先生の対談の様子をお届けします。
>>日大文理RINGS エネルギーセミナー<前編> 金田武司さんの特別講演「歴史から考える日本のエネルギー問題」をレポート!

株式会社ユニバーサルエネルギー研究所の金田武司さん(左)、日本大学文理学部 情報科学科准教授・日大文理RINGSセンター長の大澤正彦先生(右)
大澤先生:金田さんの講演を聞いて、「日本ではスリランカの国家破綻のニュースなどがほとんど報じられていない」という点に疑問を感じました。
金田さん:国家破綻のトピックを報道するなら、「国家が破綻しました。人々が苦しんでいます」だけではなく、「日本と同じように資源を持たない国が、エネルギー価格の高騰によって国として立ち行かなくなった」という背景まで含めなければ、正しく情報が伝わりません。ただ、きちんと説明しようとすると、どうしても話は複雑になり、読み手や視聴者の関心をつなぎ留めるのが難しくなります。私の持論ですが、このあたりが影響して、メディアは賛否がはっきり分かれるような、視聴者の共感を集めやすいトピックを扱うことを優先してしまうのではないでしょうか。

世の中で起きていることについて、背景も含めて報じられることの重要性について語る金田さん
大澤先生:日本にとって、スリランカの国家破綻は決して他人事ではありませんよね。日本も国家破綻するリスクがすごく高いのではないかと感じました。
金田さん:まさにその通りです。日本はエネルギー資源をほとんど持っていない国で、頼れるのは海を渡って資源を運んでくるタンカーだけ。ガスのパイプラインも、電気の送電線も、海外とはつながっていません。日本がエネルギーに関してどのような歴史をたどってきたのかを踏まえて、「一万円札に一万円の価値があることは、誰が保証できるのか?」を考えてみてほしいんです。その価値を裏打ちする明確な担保はありません。エネルギーを安定して確保できるかどうかが、国の信用や経済の土台を支えているんです。
エネルギー問題は、電力会社やガス会社だけの話ではなく、金融政策であり、環境問題であり、歴史の流れの中で考えるべき社会全体のテーマです。電力は日本経済を下支えする存在で、これから成長していくための大前提。私たちが持っているお金の価値を支えているのは、実はエネルギー資源やそれを安定して調達できる力なんです。エネルギーが安定して手に入らず、発電もできない国は、いざという時に誰も助けてくれない。これが世界の現実であり、その現実を知ることがエネルギー問題を考える第一歩になると思います。

日本のエネルギー自給率は12.6%と主要国の中でも低い(出典:IEA「World Energy Balances 2023」の2022年推計値、日本のみ資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2022年度確報値)
大澤先生:今日の話は、自分がこれまでやってきた活動やこれから進もうとしている道に直結すると感じました。私はずっと「ドラえもんをつくりたい」という思いで人工知能の研究をしてきましたが、社会に広げていこうとすると、あちこちで壁にぶつかるんです。「どうつくるのか」「どう広げるのか」「どう実装するのか」が見えない。社会がこれからどう変わるのか、どんな課題が待っているのかもはっきりしない。こうした状況で、一人で勉強を続けることには限界があると感じるようになりました。
だからこそ、分野の異なる専門家の方々とつながりながら、一緒に研究し、開発し、社会に広げていく必要があると気づいたんです。そうした思いから、日大文理RINGSのイベントとして、金田さんにご講演をお願いしました。
日大文理RINGSは、日本大学文理学部の学生を中心に、学外の組織や個人など、さまざまな立場の人が集まる場です。これまで一つの専門分野を深く掘り下げてきた人たちが、分野を越えてつながることで、自分たちの課題を解決したり、これから起こり得る問題を立体的に捉えたりすることを目指しています。

日大文理RINGSは日本大学の学生や教員に限らず、他大学、自治体、企業、団体等、多種多様な立場の人々が参画し、社会課題解決に向けた基盤の整備を目指す(画像提供:日大文理RINGS)
金田さんのお話から、「エネルギーの問題一つで、こんなにも社会が揺らぐんだ」と強く実感しました。AIは電力がなければ動きません。もし電力が安定して確保できなければ、国そのものが立ち行かなくなる可能性だってあります。もし大切なことが十分に報道されていないのなら、報道に関わる人たちが日大文理RINGSに加わることで、議論はもっと広がるのではないかという発想も浮かびました。
金田さん:エネルギー問題と日大文理RINGSの取り組みはとても相性がいいと思います。歴史を振り返ると、通貨の価値や国家同士の関係、さらには戦争が起きる背景まで、エネルギーはあらゆる物事と深くつながっています。まさに学際的なテーマの代表格と言えるでしょう。私たちが社会の中で向き合わなければならない課題は、どれも単純ではなく、いくつもの要素が絡み合った複合問題です。だからこそ、特定の専門家が数名いるだけでは、とても解決できない。そこにAIの力が関わってくる余地も十分にあると思っています。
金田さん:実は私自身も、最近はかなりAIに助けられています。AIは、過去の文献や資料、歴史の蓄積をもとに結論を導き出す、いわば高度な「文献調査」のような存在です。一見すると、とても創造的な答えを出しているように見えますが、その土台には膨大な過去のデータがあります。
ただ、そのAIが「これからエネルギーの世界で何が起きるのか」を、本当の意味で予測できるようになるのは、いつなのか。そこにはまだ大きな問いが残ります。というのも、エネルギーの歴史は連続的ではなく、突然、しかも大きく方向転換する形で変わってきたからです。
例えば、江戸時代の終わりにペリーが来航したこと。もし当時AIがあったとして、それを予測できたでしょうか。おそらく無理でしょう。その後、石炭の時代が訪れ、明治・大正になると電気が使われ始めます。さらに、第二次世界大戦が起きたことも、大地震によって原子力発電が止まったことも、AIに予測できたとは思えません。しかし、こうした出来事がエネルギーの歴史を大きく変えてきたのです。

「江戸時代にAIがあったとしても、さすがにペリー来航は予測できなかった」と金田さんは話す(画像素材 / PIXTA)
それを踏まえると、国が定める「エネルギー基本計画」のように、「何年までに何をする」と細かく計画を立てることに、少し疑問を感じたりします。もちろん計画を立てることは大切ですが、歴史を振り返ると、想定外の出来事が社会を大きく動かしてきたのも事実です。非連続で予測しづらい社会の中で、国のエネルギー政策は本当に変化に対応できるのか。その前提について、私たちも一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。
大澤先生:エネルギーの話を聞いていると、やはり予想外の出来事に大きく左右されながら進んでいく、という印象があります。例えばコロナ禍の時もそうでした。専門家の方々が「コロナはなくならない。ウィズコロナの時代をどう生きるかが大切だ」と語っていて、私自身も「なるほど」と思っていたんです。でも今の社会を見ると、ウィズコロナというよりもアフターコロナに近い。マスクをして自粛する生活が一生続くと思うと、やっぱりしんどい。だから人々がアフターコロナを望んで、その気持ちが社会全体を動かした部分もあるのではないかなと。
こうした人の気持ちや偶然の発見といった要素が重なると、科学の力だけですべてを正確に予測するのは難しいですよね。人の心が絡む中での技術開発には、変化を受け入れる姿勢も、自ら変わっていく覚悟も必要です。これはAIも、これからのエネルギーの世界も同じだと思います。

コロナ禍の経験も踏まえて「科学の力だけでは予測できない未来がある」と語る大澤先生
金田さん:私自身、大学を卒業してから30~ 40年経った今、改めて「大学で何を身につけたんだろう」と振り返ることがあるんです。その答えは、専門知識そのものよりも、「疑問を持つ力」や「何が正しいのかを自分の頭で考える力」だったと思っています。
数学、物理、化学、情報、社会学など、すべての学問に共通して大切なのは「正しさを見極める力」です。これは、メディアの情報をそのまま受け取るだけでは身につきません。自分の頭で考え、自分の意見として答えを出すことが必要なんです。
そして、もし自分なりに「これが正しい」と確信できる答えにたどり着いたら、周りに流されず、最後までその考えを貫いてほしい。自信を持って主張できる人がきちんと評価され、活躍できる社会であってほしいと心から思います。
これまでの日本は、「長いものに巻かれろ」という空気の中で、当たり障りのない意見が通りやすい社会だったと思います。でも、これからは違う。自分の考えを持ち、「私はこう思う」とはっきり言える人が、社会を前に進めていきます。学生のみなさんには、ぜひそんな存在になってほしいですね。
大澤先生:今日の素晴らしいご講演も、先生が長年大切にされてきた「疑問を持つ力」の積み重ねから生まれたものなのだと感じました。学生たちが疑問を持つことを恐れずに学んでいけるよう、今日のメッセージをしっかり受け止めていきたいと思います。

セミナーに参加した学生たちは、真剣な表情で金田さんのメッセージを受け取っていた
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変化していく世界の中で、何を信じ、どう判断するのか。そのために必要なのは、出来事の背景を知り、自分の頭で考える力。疑問を持つことや自分の考えを貫くこと、その大切さを改めて感じる対談でした。そして最後に、金田さんと大澤先生のお二人に「電気とは何か?」を質問してみました。
金田さん:改めて「電気とは何か」と聞かれると、なかなか難しいですね。でも、あえて言うなら、電気は私たちの命そのものだと思います。電気がなければ、電話もインターネットも使えない。救急車や消防車を呼ぶこともできない。冬は暖房も使えず、ただ寒さに耐えて生活するしかなくなる。そう考えると、電気は「止まったらすべてが止まる」存在で、「命」と同じくらい大切なものだと感じています。
大澤先生:電気は、心から尊敬するテクノロジーの大先輩ですね。電気についてしっかり学んで、自分たちのテクノロジーに活かしていきたいです。
金田武司(かねだ たけし)
株式会社ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長。慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業、東京工業大学大学院総合理工学研究科エネルギー科学専攻博士課程修了後、1990年に三菱総合研究所へ入社。2004年、ユニバーサルエネルギー研究所を設立し、エネルギー分野において政策支援や技術導入支援、社会実証事業などを実施。国内の学会、政府・自治体の各種委員などを歴任。著書に『東京大停電 電気が使えなくなる日』(幻冬舎)。
大澤正彦(おおさわ まさひこ)
おおさわまさひこ。日本大学文理学部情報科学科准教授、日本大学文理学部次世代社会研究センター長、医学部 兼担准教授。博士(工学)。東京工業大学附属科学技術高等学校情報・コンピュータサイエンス分野、慶應義塾大学理工学部情報科学科をいずれも首席で卒業。2017年慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。著書に『ドラえもんを本気でつくる』『じぶんの話をしよう。-成功を引き寄せる自己紹介の教科書』(いずれもPHP研究所)。
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