
危機管理担当者にお役立ち情報
2025/12/24
サステナブル経営とレジリエンス強化
後藤 茂之
大阪大学経済学部卒業後、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所・客員研究員(1996~1997)を経て、中央大学大学院総合政策研究科博士課程修了、博士(総合政策)。中央大学経済研究所客員研究員、日本リスクマネジメント学会・評議員、ソーシャルリスクマネジメント学会・理事。38年間大手損害保険会社及び保険持株会社にて、企画部門、リスク管理部門、国際業務部門等に従事。経済価値ベースの企業価値管理、ERMの構築・強化などの業務に携わった後、現在まで10年間大手監査法人にてリスクアドバイザリーサービスに携わり、現在にいたる。また、この間大学、大学院の客員教授、非常勤講師、セミナー、講演などを行う。主な著書に、『自然・生物多様性リスクマネジメント』中央経済社(2024年)、『ESGリスク管理』中央経済社(2023年)、『気候変動時代の「経営管理」と「開示」』中央経済社(2022年共同編著)、 『リスク社会の企業倫理』中央経済社(2021年) などがある。
後藤 茂之 の記事をもっとみる >
ピーター・ドラッカーが、「経済的な活動は、現在の資源を不確かな未来に投入することであり、必然的に、企業は不確実性を管理する機能を必要とする*1」と述べているように、企業活動には常に新たなビジネス機会の探索が必要である。しかし、それには不確実性が伴う。したがって企業は、いかにリターンの源泉としてリスクを取り、企業価値を持続的に高めてゆくかに腐心する存在である。
このように企業活動は、社会に付加価値を提供するために将来に向けて働きかけるものであるといえる。将来の具体的なシナリオや結果は誰にも正確に予測できないため、企業活動は失敗による倒産リスク*2を常に孕んでいる。企業の社会的使命である付加価値を提供し続けるためには、付加価値創造の機会を探し続けるのと同時に、倒産を防止し、継続的活動を維持してゆかなければならない。
倒産原因は様々であるが、市場変化の把握遅れや対応力不足、経営判断の誤り、内部管理の不備、不祥事件の発生などが挙げられる。経営者は倒産要因を経営リスクとしてとらえ、的確に対処しなければならない。特に経営環境が大きく変化している状況の下では、変化への対応不備を防止し倒産を未然に防ぎ企業活動を続けるための耐性を向上させるためにリスク管理を強化する必要がある。
現実の企業は様々なリスクにさらされながら事業活動を営んでいる。今日の会計では、企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提、すなわち継続企業(ゴーイングコンサーン; Going Concern)に関する有用な情報を、投資家をはじめとする利害関係者に提供することを目的としている。
日本では、1990年代後半に企業破綻の事例が相次いで発生した。その中には、監査人が監査報告書で適正意見を表明していた直後に倒産する会社も存在したことから、継続企業の前提に対する会計監査への要請が高まっていた。一方、米国や国際監査基準では、継続企業の前提に関する監査制度が導入されていた。このような中で、企業会計審議会が2002年1月に公表した「監査基準の改訂に関する意見書」で、継続企業の前提の監査に係る規定を導入し、2003年3月決算の財務諸表監査から適用することになった。
売上高の著しい減少や重要な営業損失、経常損失又は当期純損失の計上など継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合には、「当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策」が財務諸表作成時現在計画されており、効果的で実行可能であるかどうかといった「継続企業の公準」が重視される。
国際会計基準は、企業業績を過去の確定値に基づき報告する収支管理の世界から、将来の価値創造について合理的な予測値に基づく財務報告の世界へと移行させた基準である。現在、これまでの財務情報に加え、いかに非財務情報を取り扱うのかに関する基準の検討を進めている*3。このような動きからわかるように、経営管理が、蓋然性の高い予測の世界から不確実性を所与とした合理的な予測の世界を意識した世界へと変化していることがわかる。
危機管理担当者にお役立ち情報
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方
サステナブル経営とレジリエンス強化の他の記事
おすすめ記事
環境変化に伴うビジネス機会の拡大と不確実性の拡大
ピーター・ドラッカーが、「経済的な活動は、現在の資源を不確かな未来に投入することであり、必然的に、企業は不確実性を管理する機能を必要とする 」と述べているように、企業活動には常に新たなビジネス機会の探索が必要である。しかし、それには不確実性が伴う。したがって企業は、いかにリターンの源泉としてリスクを取り、企業価値を持続的に高めてゆくかに腐心する存在である。
2025/12/24
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/23
ハラスメントの過剰反応が招く弊害堂々と指導できる企業に
「パワハラ」という単語にだけ反応し、指導が及び腰になることはリスクマネジメントの観点からも育成の観点からも組織文化の観点からも誤りです。基準を確認し、「堂々と指導できる企業文化」を目指しましょう。
2025/12/19
第8回 海外子会社経営リスク管理編(4)
今回は日本と欧米のガバナンスの違いを見ながら、日本企業のあるべきコーポレートガバナンスのあり方も見ていきたいと思います。
2025/12/17
「チャイナリスク」の変化と対峙せよ
チャイナリスクという言葉は1980年代から発信されていました。その後、経済の相互依存による平和の実現という理念のもとで日中関係は進展。しかし、その結果はご案内のとおりで、対中緊張の高まり、安全保障リスクの顕在化、そこへ高市総理国会答弁をめぐる騒動です。現時点でのチャイナリスクの実態と必要な備えについて論考します。
2025/12/16
ITリスクの重層構造にどう対峙する?
上場企業のリスクマネジメントで重視される対象は災害、サイバー攻撃、IT障害、サステナビリティ対応などさまざまで、対策は多岐にわたります。なかでもサイバー攻撃やIT障害は専門的スキルを求められることが多く、委託に頼るケースが増加。結果、リスク構造は重層化しています。今回は、複雑化するITリスク管理に求められる根本を考えます。
2025/12/15
(AI特別編)動き続く現場で火が出たら × 119番通報 × 指揮命令系統
今回、10回目を記念して、連載で紹介している訓練を、生成AIを使って実際に皆さんにお試しいただく特別版をご用意しました。 皆さんには、先日の記事を読んでいただいた上で、お手元の生成AIでぜひお試しいただければと思います。
2025/12/15
人気アパレルブランドのカスハラ注意喚起が炎上!?
顧客の威圧的な行動や言動から従業員を守る。企業としてごく真っ当な姿勢ですが、カスハラに法的対応をとるとしたメッセージが「逆ギレ」と受け取られ、炎上するケースが発生しています。これはある意味、ソーシャルメディアではしばしば起きる「被害者ポジション競争」で企業側が負けたということ。それはどのような構造なのかを考えます。
2025/12/12
動き続く現場で火が出たら × 119番通報 × 指揮命令系統
避難訓練はできる。でも、現場が「動いている」状態では本当に指示できますか? もし、フル稼働しているラインの中央で煙が上がったら、あなたは最初に何を指示しますか? 最初の3分の判断が「けが人ゼロ」と「重大災害」を分けます。今回は、日頃の避難訓練では見えない「初動のリアル」を体験する訓練です
2025/12/12
第60回:サイバーの火事場で輝くカワタレ星
サイバー攻撃の火事場に舞い降りる「救急隊」は、町火消しの心意気で、まず人々を安心させねばなりません。求められるのは沈着な「鳶口」の手慣れた振り回し。そう、沈着さが救急隊を輝かせてくれます。が、沈着さはその場で得られるはずもありません。どのような準備が必要か、お馴染みスティーブ・ダービンのインタビューから紐解きます。
2025/12/11
有料記事をもっと見る
関連コンテンツ
ランキング
1
防災・危機管理ニュースキャッシュレス、風評に課題=首都直下、バックアップ体制は進展―金融界の地震対策
2
防災・危機管理ニュース警察・自衛隊がサイバー防御=中ロ朝念頭、政府が新戦略
3
危機管理ニュース解説中澤・木村が斬る!【2025年12月23日配信アーカイブ】
4
防災・危機管理ニュース洋上風力発電事業を停止=レーダー妨害、安保理由に―米政権
5
防災・危機管理ニュース「信頼できるAI」で世界一に=初の基本計画、閣議決定
1
セミナー・イベント2026年リスク地図 解説セミナー― 危機管理白書で読み解く次の備えとDX戦略 ―
2
独自調査災害時通信システムの導入率は63.5%衛星電話が27.9%で最多
3
再考・日本の危機管理-いま何が課題か「チャイナリスク」の変化と対峙せよ
4
企業をむしばむリスクとその対策ハラスメントの過剰反応が招く弊害堂々と指導できる企業に
5
海外事業を成功させるリスク管理とは第8回 海外子会社経営リスク管理編(4)
1
セミナー・イベント2026年リスク地図 解説セミナー― 危機管理白書で読み解く次の備えとDX戦略 ―
2
事例から学ぶ富士山噴火に全社をあげて対策
3
防災・危機管理ニュース三菱製鋼の特殊鋼製造に影響=日鉄室蘭地区の火災で
4
あなたの会社の危機対応力を鍛える新しいアプローチ新型インフルエンザ×職場集団感染×72時間の生命と事業の判断
5
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』5本指ソックスは寒いので冬山では履きません!
味の素が挑む全社的リスクマネジメントの再構築
組織化するサイバー攻撃 企業はどう立ち向かう?
多重・連鎖型リスク時代のBCP──専門家×ITベンダーが語る“本気の備え”
危機管理とBCPのおススメ本![]()
危機管理白書2026年版
月刊BCPリーダーズ2025年上半期事例集【永久保存版】
危機管理白書2025年版
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
危機管理白書2024年版
2022年下半期リスクマネジメント・BCP事例集[永久保存版]
危機管理白書2022年版
2022危機管理標語カレンダー【秋編】
2022危機管理標語カレンダー【夏編】
2022危機管理標語カレンダー【春編】![]()