社会課題の解決に向けて、異なるセクターが手を組む「共創」の重要性が叫ばれて久しい。しかし、実証実験の枠を超え、ビジネスとして社会実装に至るまでのハードルが決して低くないことも事実だ。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションでは、同会議カタリストの菅原聡氏がファシリテーターを務め、大企業、自治体、スタートアップ支援の第一線で活躍する3名が登壇。三菱地所レジデンスの渡辺尚子氏、STARTUP HOKKAIDOの藤間恭平氏、東京大学 FoundXの馬田隆明氏が、それぞれの現場で直面する壁と、それを乗り越えるための実践的なアプローチを語り合った。
マンションの木材活用において国産材や認証材を導入する「木の守 PROJECT」を推進する三菱地所レジデンスの渡辺氏は、「森林循環に本当に寄与しているのか」という疑問から、自ら林業の現場に足を運んできたという。
そこで直面したのは、30〜50年かけて育てた「中丸太」が、原木市場でわずか5000円程度でしか取引されていないという厳しい現実だった。これでは、伐採後に再び植林し、持続的な木材生産を狙う「再造林」の費用が賄えない。そこで同社は、マンション事業者が林業関係者から直接木材を購入するスキームを作るべく、秋田県大館市などと連携協定を結び、出処がはっきりした木材を適正価格で調達。こうした木材について、「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ」の共用部などをはじめ、活用を広げているという。
コスト上昇という社内の壁に対しては、「お客さまが『良い選択をした』と誇りに思える価値へ昇華させる」ことで理解を得ているという。渡辺氏は「この直接調達スキームを一過性のもので終わらせず、木材流通の当たり前にすることが目標」と力強く語った。
STARTUP HOKKAIDOの藤間氏は、開拓から150年を迎えた北海道を舞台に、次世代の産業エコシステムを構築している。同組織は、札幌市や北海道庁、大学、民間企業が一体となったオール北海道体制でスタートアップを支援する官民連携組織だ。
「現在、北海道では『一次産業・食』『宇宙産業』『環境・エネルギー(GX)』の3領域に絞ってスタートアップの集積を進めている。しかし、経済的インパクトを狙うスタートアップと、地域への最適化を求める自治体とでは、使う言語や見ているゴールが異なる」。そこで藤間氏らが担うのが「翻訳家(トランスレーター)」としての役割だ。両者の間にクッション材として入り、対話を通じてお互いの可能性を引き出すことで、道内179市町村が抱える課題とテクノロジーを結び付ける社会実装を次々と生み出しているという。
東京大学FoundXの馬田氏は、スタートアップ創出の新たなトレンドである「カンパニークリエーション」について解説した。これは、起業家のアイデアを待つのではなく、投資家や大企業が主体となって「社会に必要なスタートアップ」を逆算して立ち上げる手法だ。欧州におけるグリーン鉄鋼メーカーの設立などがその典型例として挙げられる。
馬田氏は「共創(Co-creation)をパズルのピースを埋める作業だとすれば、その前には必ず、完成図となる『構想(Grand Design)』が必要」と訴える。「構想が大きければ大きいほど、自社だけでは埋められない空白が生まれ、それが他社と手を組む理由になり、スタートアップの成長余地になる」といい、大企業だけでは動きにくい領域で、スタートアップがリスクを取って最初の実績を作る流れを狙う。このためには、全員を巻き込む「ワクワクする構想」を描くリーダーシップが不可欠だと馬田氏は指摘した。
後半のディスカッションでは、会場の参加者から「未知の領域に一歩踏み出す際、コストやリターンの壁をどう突破するのか?」という切実な質問が投げかけられた。
馬田氏は「現実的な手段としてベンチャーキャピタルなどのリスクマネーを引っ張ってくること。そしてもう一つは、人の感情が動く構想を描くこと」と回答。また藤間氏の「構想の解像度を極限まで高め、関係者に現場を見てもらうべき」との意見には、渡辺氏も「現場に関係者をただアテンドするだけでなく、何を持ち帰ってもらいたいかの目的意識を磨いておくことは大事」と同意した。
ファシリテーターの菅原氏はセッションの最後に、「1000曲をポケットへ」としたiPod発売時のスティーブ・ジョブズの言葉を引き合いに、「ビジョンの解像度と、手が届きそうだと感じさせるワーディングが共創を生む」と総括。明確な構想を描き、現場へ足を運び、セクター間の言語の壁を翻訳する方法論が示された時間となった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。
