
AI(人工知能)は環境・エネルギー分野において、研究開発からその実装や運用までを横断的に支える基盤技術へと進化している。脱炭素化とエネルギー安全保障などさまざまな課題の解決に向け、その役割は一層重要性を増している。複雑な現象を扱う中で、物理法則と融合した新たな活用が広がりつつある。
実装のカギ
同分野でAIを実装するカギは、精度だけでなく、物理法則との整合性と説明可能性(信頼性)の両立にある。これにより、社会インフラとして安全かつ持続的に活用できる。
気象や電力需給に関する従来の数値シミュレーションは高精度である一方、計算に多大な時間と計算コストを要するという課題があった。近年、物理法則を学習条件として組み込むAIが登場し、この制約を克服しつつある。物理モデルとデータ活用を組み合わせ、効率と精度、結果の妥当性を同時に確保する手法が広がっている。
例えば、マイクロソフトの「Aurora」に代表される気象の分野の基盤モデルでは、質量保存やエネルギー保存といった基本法則を担保し、高精度かつ高速な気象予測を実現しつつある。従来の数値モデルと同等以上の精度を維持しながら予測時間を大幅に短縮でき、異常気象の早期把握や再生可能エネルギーの出力予測の高度化への貢献が期待される。単なるデータの当てはめではなく、物理的に整合した予測が可能となる点が重要である。
判断理由明確に
また、エネルギー運用の現場では、「説明可能なAI(XAI)」の重要性が急速に高まっている。需給バランスの崩れは停電など社会に直結し、誤判断が広域的な影響を及ぼす可能性もあることから、AIの判断理由を明確にし、運用者が理解し検証できることが不可欠である。こうした要請に応えるため、AIの判断プロセスや影響要因を可視化することで、信頼性と実用性の両立が図られている。併せて、AI普及に伴う電力需要の増大を抑えるため、半導体の高効率化や冷却技術の革新による基盤の省エネ化が進展している。今後の普及は、AIのアルゴリズム設計(ソフト)と計算基盤の高効率化(ハード)の両面から環境負荷を最小化する最適化が条件となる。
データの標準化と共有を進めるとともに、説明可能なAIの制度整備と物理モデルとの融合を一体的に推進し、信頼性の高い基盤を構築することが不可欠である。これにより、AIを脱炭素化とエネルギー安全保障を支える中核技術として社会実装できる。
※本記事は 日刊工業新聞2026年4月24日号に掲載されたものです。
<執筆者>
馬場 智義 CRDS元フェロー(環境・エネルギーユニット)
九州大学大学院総合理工学研究科修士修了。重工業メーカーにて研究開発・技術企画などに従事。24年3月から26年3月までJSTに出向し、環境・エネルギー関連分野の俯瞰調査と戦略立案を担当。修士(理学)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(335)AI for Scienceの展望(4)環境・エネ分野、物理融合で信頼構築(外部リンク)
トップに戻る