酵母の成長スイッチ「TORC1」が清酒の香味に与える影響を解明(第二報) ―TORC1の脱抑制が吟醸香とリンゴ酸の増加に寄与― – gekkeikan.co.jp


2026年03月26日
国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(学長・塩﨑一裕、奈良県生駒市)の渡辺大輔准教授と、月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は共同研究により、酵母の成長を司る司令塔として働く「TORC1(トークワン)」の抑制因子を操作することで、日本酒の吟醸香とリンゴ酸が増加することを明らかにしました。今回の「第二報」では、遺伝子解析等を通じて、TORC1の脱抑制(常に作動し続ける状態)が、これらの香味成分の増加に直接関与していることを科学的に裏付けました。

背景:これまでの研究成果(第一報)
清酒酵母において、成長スイッチである「TORC1」はエタノール発酵に重要な役割を担っています。両機関は2025年10月の共同発表(第一報)において、TORC1を抑制する因子の遺伝子(NPR2、NPR3)を破壊した酵母を用いると、吟醸香(酢酸イソアミル)とリンゴ酸が劇的に増加することを見出していました。しかし、これらの成分増加が、実際にTORC1の脱抑制によるものなのか、その詳細なメカニズムは不明のままでした。

研究の内容と結果:遺伝子レベルでのTORC1脱抑制を実証
今回の研究では、最新の遺伝子解析手法(RNA-Seq)を用い、NPR2遺伝子破壊酵母の遺伝子発現を精査しました。その結果、TORC1が活性化することで増加する遺伝子群(リボソーム関連等)の転写が顕著に促進されており、遺伝子レベルでTORC1が脱抑制されていることが示唆されました。
また、TORC1阻害剤(ラパマイシン)を用いた試験では、阻害剤処理によって香味成分の生産量が低下することが確認されました。これらの結果から、TORC1の脱抑制こそが、吟醸香とリンゴ酸の高生産を引き起こす重要な要因であることが強く示唆されました。

今後の展望
本研究により、制御因子であるTORC1をターゲットとすることで、理想的な酒質の設計が可能になることが示されました。今後は、さらに詳細な制御経路の特定を進め、バイオテクノロジーの力を活用した新しい実用酵母の育種法開発を目指します。

【補足用語】
・TORC1(トークワン): 栄養やストレスに応答して細胞の成長や代謝を制御する司令塔のような因子。
・RNA-Seq: 遺伝子発現を網羅的に解析する手法。どの遺伝子がどれくらい活性化しているかを評価する。
・ラパマイシン: TORC1の働きを特異的に抑制する薬剤。

今回の研究成果は、日本農芸化学会 2026年度大会(会期:2026年3月9日~12日)で発表しました。

学会名:日本農芸化学会 2026年度大会(主催:公益社団法人日本農芸化学会)
日時:2026年3月11日11時00分~11時12分
会場:同志社大学 今出川キャンパス 良心館
演題:清酒酵母TORC1抑制因子破壊株における 吟醸香とリンゴ酸高生産機構の解析
発表者:〇浅井良樹1、戸所健彦1、根來宏明1、堤浩子1、赤坂直紀2、両角佑一2、渡辺大輔2、石田博樹11月桂冠(株)・総合研究所、2奈良先端大・バイオ)(○印は演者)

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術の基盤となる情報科学、バイオサイエンス及び物質創成科学の研究領域に加え、これらの融合領域において世界レベルの先進的な研究を推進し、更なる深化と融合、そして新たな研究領域の開拓を進めています。
最先端の研究成果に基づく体系的な教育を通じて、世界と未来の問題解決や先端科学技術の新たな展開を担う「挑戦性、総合性、融合性、国際性」を持った人材を育成し、もって科学技術の進歩と社会の発展に貢献します(学長=塩﨑一裕、所在地=〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916番地の5)。

月桂冠総合研究所
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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月桂冠株式会社

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